鈍色の空、年の瀬の色。

鉛色と呼ぶにふさわしい、これぞ冬の空の色。

コートの前をかきあわせて、風の侵入を防ぎながら歩く。


待ってましたとばかりにきらめきを増していくのは

街路樹をいろどるイルミネーションのまたたき。


まるで冬に焦がれているような書き方だけど、

寒いのは苦手です。

けれど、寒くあるべきときに寒くないのはもっといやなのです。

凍えるようなときだからこそ、

味わえる情緒ってもんがあるでしょう?


そも、東京の秋と冬とは

本当は実に美しいものだった。

見上げるビルのまにまに立ち尽くすと、おそるべき空っ風が吹き付け

頬がきんきんに冷えてゆくけれど、そんなときにこそ

爽快な青い空をおがむことができたり。

枯れ葉の散る音、乾いたアスファルトにさらさらと邂逅を果たす光景は

いかにも東京の秋の終わりを感じさせるものだった。


なんでしょう、イルミネーションが凍てつくほどの寒さでないと

きれいに見えないと言い続けているのは

私の懐古趣味なのかもしれません。


いくつもの冬の景色を、凍えながら片寄せながら眺めてきた。


そうか、かように美しいと信じる光の光景はもしや、

私の記憶のなかだけに存在しているのかも知れぬ。



箱草子仮名手本。

泡沫のように浮かんではパチン、と消えていく。 その「束の間」にピンを指して標本にしてしまおう。

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