コートの前をかき合わせて襟元からの風の侵入を拒みながら歩きだすと、見とれるほどの青い空が広がる。ここ連日、雨のふらない東京ではからっからの乾燥を憂う声とうらはらに、見事としか言いようのないスカイブルーが心を爽快にしてゆく。
そうすると決まって、
「いい空は青い。」というあまりにも有名すぎる全日空のコピーを思いだすのだ。
このコピーが秀逸なのは、数え上げること自体がナンセンスのような加点ポイントが多数あるのだけど、しらけてしまうのを承知であえて今回は書いてみよう。
たとえば、「いい空」ってなんだ?
空にいいも悪いもあるものか、と思いきやあるのだ。とりわけそれは航空事業社にとって重大な意味を持ち、悪天候イコール視界不良、風の影響などで旅客機のミッションである安全性に影響する。利用者すべてに安全で、正確な航路を提供するには欠くことのできないのが「いい空」なのだ。
それは、視界を明瞭に保てるクリアな晴天、運航を妨害しない穏やかな風。それを満たすのはつまり、結果としてよく晴れた日の青空になる。
単純にそれで、「いい空」は「青い」に結びつくだけではない。
全日空のコーポレートカラーは青。
乗客に安全性を提供し、各乗客の目的地に正しく適切に運行できる空模様には、全日空が欠かせません。という意味にもとれれば、反対から
乗客に安全な空の旅を提供するのは、全日空です。
という宣言でもある。
これを、「いい空は青い。」というごくごく短い一文のなかに余すことなく込め、
人は青空を見るたびに全日空を思い出すというギミック。
「いい空」も「青い」ことも、すべての人に平易でなじみのあるものだ。
これが、企業広告だからといってその会社の人間にしか理解不能な単語をちりばめたら、ここまで生活シーンになじんで親しまれることはなかった。
この点がもっともこのコピーが優れている点かと思う。
それはそうなんですよ、なんたってクリエイターは一倉宏さんだもの。
若き広告マン(を目指していた)だった頃、一倉さんのコピーは時代そのものだった。
まぶしくてまぶしくて、羨望のあまり少しだけ憎かった。
才能というものを目の当たりにしたり、比しての自分の今いる場所なんかを痛切に感じるとき、
嫉妬できるほどの人間でないから、その感情は持てあまして憎しみの方により近かったろう。
全日空さん。すばらしいコピーを世に残したことで、空が青い度、青空を眺める度、
こんなふうに御社を思い出す人間がたくさんいることでしょう。
「いい空は青い。」
白眉ですね。
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