春の海 ひねもす のたりのたりかな

ほとんど望郷の念に近いかたちで、早春の館山を想う。

いくつかの明確な理由があって、母が昔から春の頃になると房総半島へ必ず花摘みに行く人だった。

ちなみに、花摘みというとメルヘンな絵柄をイメージするとそれは違って、

海に面した路地の畑に広がる栽培した花畑で、裁ちばさみを手に思い思いにサク、サクと茎を切って伐採していく。山のように両腕に抱えるほどの量でも驚くほど安い。

そしてそれは、ひと月以上ももつほどきわめて鮮度が良いのだ。

そんな風物詩のように花を摘む親に育てられたもので、大人になっても2月の声をきくと

いてもたってもたまらなくなるのだ。


高速バスで新宿からおよそ2時間ほどで館山駅にはいくことができる。

いったん乗り込んでしまえばとても快適。

海のそばで幼少期を過ごしたものだからか、今でも海が見えると胸がすく思いがする。

早い春の陽光を面(おもて)に浴びて、さんざめく波間の光が愛しい。

駅におりたった瞬間から「春!」。ここは同じ関東地方ですか?


そんなことをつらつら書いてはみたが、今回は旅行が目的ではなく

ある試みの計画を立てにいったのだが、非常に意義があった。

必ず立ち寄る、館山は「安房自然村」の日帰り温泉にセットされているランチ定食は

大好きなカサゴの煮つけをチョイス。ダイナミックな見た目ですが、甘辛くほくほくの身がとても美味。


もちろん花畑にも足を延ばした。うん、まだまだ咲くぞ。今度はゆっくり来よう。

ここはテレビなどで房総の花畑が映されるときによく登場する名望の場所。

花畑の向こうに海をのぞむため、絶好のロケーションなのだろう。

けれどそれを思うと、ひときわ厳しい海風を浴びながら花を育ててきた農家さんのご苦労がしのばれて、このような美しい状態になるまでの時間に敬意を感じたりする。


まだ早い春。

これからが本番。

熱々の紅茶など淹れて暖をとりながら、少し先の季節を恋い慕うばかりだ。


箱草子仮名手本。

泡沫のように浮かんではパチン、と消えていく。 その「束の間」にピンを指して標本にしてしまおう。

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