かわいそうなポール・ニザン。

最近の天気予報は、よく当たる。

つい昨日まで毎日のようにポール・ニザンのことを

考えていたというのに。

ポール・ニザンの著作を一冊も読んだことがないのに、

毎年毎年、5月になると私は彼を思い出す。

正しくは、

「彼が遺した言葉」を思い出すのだ。


それはあまりにも有名となった一節、

“僕は20歳だった。それが人の一生でいちばん美しい年齢だなどとだれにも言わせまい。”

という『アデン・アラビア』という作品に出てくる節なのだけれど

あまりにも日本では多くの愛好家?らによって引用されるほどに有名だ(と思う)。


私が5月になると彼を思い出すのは、

一斉に街にあふれる新緑の瑞々しい輝きや、

少し慣れてきた今年から社会に出た新社会人たちの、

まだぎこちないスーツの着こなしを目にするからなのだ。


そんなことを思っていたら、日々日課として読んでいる新聞のコラムにも

4月になったとたんに、ポール・ニザンのこの一節の引用が見られて

「日本人(の一部の人たち)は、きっとポールの著作以上に

この引用文だけを知っている人が存外多いのかもしれない」と

かなりしみじみと思った。


かわいそうなニザン、

今年の5月は10年ぶりの寒さだそうだよ。

雨がにじむライトの具合が、いかにも冷たそうなウッドデッキの水玉に

皮肉にも躍動感を与えているというのに。

箱草子仮名手本。

泡沫のように浮かんではパチン、と消えていく。 その「束の間」にピンを指して標本にしてしまおう。

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