夜の風、金曜日、笑い声、ミニシアター。

金曜日。

時計を見る。まだ15時半。状況、寝不足。でも、朝から結構仕事をこなした。

現時点で眠気も襲い、さっきブラックコーヒーをがぶ飲みしたところだ。

だけど金曜日。


今夜は恵比寿ガーデンシネマにいこうかな、と思う。

「映画にいこうかな」ではないのだ。だから、

公開している映画のなかから観てもいいかな、と思うものを選ぶという

もはや映画を観るスタンスとはほど遠い。

けれどそれでいいのだ。

最終回を予約して、夕方まで集中して仕事を片付ける。


おなじみすぎる、恵比寿ガーデンプレイスのなかにあるその映画館は

昔でいう単館の箱。今はミニシアターとか言うらしい。

整備されたパークのような複合施設は、いっときトレンディという言葉が

流行った昔、やっぱりそういった捉え方をされて流行となった。


もううんと時が流れ、かえってこの複合施設には趣と文化が宿った。


それで私のオススメは、夜のとばりが下りてからのガーデンシネマだ。


ガーデンプレイス全体の照明は、間接照明で統一され、

ほわんと建物が浮かび上がるような、ヨーロッパの街並みのようなムード。

映画館までの道にある吹き抜けのパークには、5月の緑なす夜風が通り抜ける。

けっこうな数の人たちが屋外の至る所に設けられたベンチに腰をおろして

心地よい夜の風を楽しんでいた。


そんなわけで、恵比寿ガーデンシネマに来るということは、

ただ映画を観るということにあたらない。

喧噪と一歩離れて、けれど大人が夜の時間を愉しむ姿が多くみられて、

シックな建物と、それを効果的に見せる夜の灯り。


ミニシアターは今夜も最終回は人がとても少ない。

贅沢に椅子を確保しながら、そっと物語の世界に入り込んでいく。

女は二度決断する」。

予告を以前見てから、いつか観ようと決めていた。


金曜の開放感にそぐわないとも言える、ひたすらに胸の傷む物語を鑑賞した。

エンドロールが流れる途中、まだ誰も席を立たず

物語の世界観に入り込んでいるのか、衝撃をのみこむのに精いっぱいなのか

私ひとりいたたまれず映画館を出た。


さぁーっと夜風が甘く薫り、金曜日の夜にふさわしいさんざめく笑い声が聞こえる。


大人もいいもんだな。

まだ胸のちくちくは消えないけれど。そんな風に思った。


箱草子仮名手本。

泡沫のように浮かんではパチン、と消えていく。 その「束の間」にピンを指して標本にしてしまおう。

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