林真理子さんって、すごいよなぁ……とこの年になって思う。
それでも私は、彼女が好きではない。
photo by Hernan Irastorza
私が子どもの頃、彼女はすい星のごとく世に出てきたところで
80年代の新人類としてまさにブイブイ言わせているところだった。
が、子どもだったのでそんなことを知る由もなくて
青山に住んでいた叔母の住まいの隣室を林さんが事務所にしており、
叔母がよく
「よく知らないけれど、そういう作家が使っている」と言っていたので
とても印象に残っていた。当時、幼心に叔母のライフスタイルにとても憧れを抱いていた私は、
「こんなところを仕事場(住まいでなく)にできるなんて、すごい人なんだろうな」と
ほのかに尊敬の念を抱いたことまで思い出せる。
そしてたぶん、彼女の著作を初めて実際に読んだのは、
もっとうんと年と取ってからであり、マガジンハウスで連載していたコラムを集めたものや
小説などずいぶんと読んだ。読みながらいつも、
「なんて下衆な女の人なんだろう」と林さんのことを軽蔑しながら読んだのだ。
この人は、女の人が、いや、生まれついての美と家柄を持った女性こそが
最大の女の価値だと思っている人で、だからこそここまで憎しみをもって
筆が執れるんだろうなと思わずにいられなかった。
読むと大抵胸糞が悪くなるのだが、難しいものを読むのには余力がなくて
さらさら読み流せる活字を求めるときに彼女の著作は向いていた。
なぜなら文章が巧いのだ。
どんなに下卑ていようが下衆であろうが、文章が巧みなので読んでしまう。
これはもう、才能なんだな、と帽子を脱いだのは割と早かった。
それでも私は、彼女が好きではないのだ!
そして彼女自身が年を重ねるにつれ、小説のモチーフが変わっていく。
大正三美人とうたわれた元お公家さんの柳原白蓮や、現在大河ドラマにもなっている
西郷隆盛など、歴史小説にも進出を始めるが、
下卑た目線はそのままに、やっぱり巧い物語力で主人公の色を作家の色が引き出しているのだから
うなってしまう。
そして驚いたのが、日経新聞朝刊での連載だ。
えー、経済新聞が林真理子!?というくらい異色だったが、おそらくは「西郷どん」効果も
手伝って壮年期世代にもアピール効果充分、と媒体も踏んだはずだ。
これがまあ、下卑て下賤で真理子節全開なのだ。
渡辺淳一なの!?というくらい、エロ。中高年のエロなのだ。
でも、そのなかに彼女が長いこと書き続けている「お金のある特別な世界の住人」という主題は
ぶれておらず、しかもそこに彼女独特のじとじととした嫉妬をたぎらせながら「特別な世界」を書ききれてしまう知見の豊かさには舌を巻く。
京都の上流階級、芸妓の世界、グローバル企業の3代目という人格、
憧れる余り憎しみをもって描き切る巧みさは健在で、ついついその下品な小説を毎日読むことを日課にしてしまっている。
下品な品性だ、こういうふうに世界を見ているのか。
と一段上に立っているようで面白いと感じてしまう自分に葛藤を抱きながら。
いや、それでも私は林真理子が好きではないのだ。たぶん。
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